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大阪高等裁判所 昭和32年(う)992号 判決

控訴人 検察官 臼田彦太郎

被告人 岩佐雅之

検察官 坂本杢次

主文

本件控訴を棄却する。

理由

検察官の控訴趣意及びこれに対する弁護人の答弁は、それぞれ記録添付の検察官臼田彦太郎名義の控訴趣意書及び弁護人中井一夫名義の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

一、検察官の法令適用の誤の主張について、

論旨は、被告人の原判示(一)の事実と(二)の事実との中間において、昭和三十一年十一月二十二日灘簡易裁判所で覚せい剤取締法違反罪により罰金三千円に処せられ、右裁判は同年十二月七日確定している。ところで、各独立した犯罪を構成するに足る多数行為の集合による一個の包括的犯罪行為の進行中に、偶々当該犯人において何等かの裁判の言渡を受け、包括的行為の終了前、右裁判の確定を見るに至つたような場合には、該裁判確定時を標準として、包括的犯罪行為を前後に両分し、裁判確定前に行われた部分と確定裁判を経由した犯罪とを以て、刑法第四十五条後段所定の併合罪とし、その後に成文した部分を然らずとし、以上の各部分を科刑上別個に取扱うべきものと解すべきであり、従つて、本件については、二個の裁判を言い渡すべきにかかわらず、原判決が単に一個の刑を言い渡したに過ぎないから、判決に影響を及ぼすことが明らかな法会適用の誤があると主張するのである。

そこで記録を調べてみると、被告人の原判示(一)の行為と(二)の行為の中間に確定裁判が介在することは、所論指摘のとおりである。しかし、数回に亘り麻薬を所持していた事実について、常習性に基く犯行として、麻薬取締法第六十七条第一項所定の常習罪と認定する以上、右数回の事実は常習罪という単純な一罪を構成するものであるから、その数個の行為の中間に確定裁判が介在していても、一罪として処断すべきであり、右確定裁判の前後により両分して各別に処断すべきものでないと解する。

原判決は、被告人が同種の麻薬取締法違反の前科数犯を重ねているにかかわらず、またまた本件犯行に及んだのは、常習性に基くものとして、本件の二回に亘る行為を麻薬所持常習罪の単純一罪と認定した趣旨であると解せられる。従つて所論の如く常習一罪を確定裁判の前後により両分して、科刑上別個に取扱うべきものとなす見解には賛成できない。

二、量刑不当の主張について、

論旨は、被告人は既に同種の前科数犯を重ね、その麻薬施用の悪習癖は容易に矯正することができない状況にあり、自らこれを矯正する意思も能力も欠いているから、これに対しては相当長期間の自由刑を科する必要があるところ、原審が本件について懲役一年に処したのは、量刑軽きに失し不当である旨主張するのである。

そこで記録を精査すると、なるほど被告人は昭和二十七年以来昭和三十年までの間に、本件と同種の麻薬取締法違反により、懲役刑の前科四犯を重ねておるにかかわらず、なおもその非を改めることなく、またまた本件犯行に及んだものであるから、その犯情は決して軽くはないけれども、もともと、本件犯行は二回とも、被告人の麻薬施用の悪習癖を矯正せんと念願する母親より麻薬取締官に申告した結果検挙されるに至つたものであり、母親としては今後とも被告人の更生のため監督する旨誓い、被告人も今度こそ母の期待に副うよう決心を新にしているように見受けられ、その他記録に現われた諸般の情状を考察すれば、被告人に対し懲役一年を言い渡した原審の量刑は、必ずしも不当に軽いものとは認められない。

よつて本件控訴はいずれも理由がないものと認め、刑事訴訟法第三百九十六条の規定に従い、これを棄却すべく、当審における訴訟費用の負担の免除につき、同法第百八十一条第一項但書を適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 網田覚一 判事 小泉敏次 判事 本間末吉)

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